たったひとりの君にだけ
葛藤の末、私は小声で答える。
「……クリスマスが嫌いだから」
「だから、なんでクリスマスが嫌いなわけ?」
切り返しに苛立ちを感じた。
明らかに無数の刺がある。
「それを聞いてるんだよ」
やっぱり言いたくない気持ちが勝った。
それなのに、適当に流そうとしても、樹はそれを許してはくれない。
上げられない顔。
交わることのない視線。
店内に流れる慣れないクラシックがやけに耳障りだ。
曝け出すことを厭わないと決めてここに座ったはずなのに、結局は、最後の扉の鍵までは開けさせることが出来ない。
この局面に達してまで、私は自分が一番可愛いらしい。
だけど。
本当は。
正しくは。
幼少期の自分には、私だって会いたくないだけなんだ。
話しても楽しくないし、聞いていても苦しいだけ。
面白くもなんともない。