たったひとりの君にだけ
確かに熱いな、そう口にして、彼はふうっと大きく息を吐いた。
「とりあえず、部屋に戻りましょう」
倒れ掛かった私を支えてくれていた手は、もはや感覚が麻痺していそうな私でもわかるほどやっぱり力強くて。
そして、頼り甲斐があると勘違いしてしまいそうで。
気付けば抱きかかえられそうになっていた。
「……だ、大丈夫、歩ける」
だけど、私はそれを精一杯の力で制して、自分の足だけで自室にリターンすると決める。
いくら絶賛体調不良の真っ最中でも、そんな恥ずかしいこと出来るか!
死んだってお断りだ!
けれど、Uターンした先の、普段は大したことがなく、大股数歩で通過可能なはずの廊下が異常なほど長く感じられて、一瞬でダメだ、と思った。
ベッドルームから玄関までちょこっと移動しただけでこんなだし、ほんの僅か外気に晒されただけで震えが止まらない。
私、こんな状態でよくコンビニに行こうなんて考えてたな。
8分なんて絶対に歩けないわ。
絶対に無理だったわ。
潔く諦めて自然治癒力に身を委ねよう。
大丈夫。
私、椎名芽久美は、26年間こんな感じで生きて来ました。