たったひとりの君にだけ

「その程度だったってことか、俺は」


自暴自棄ともとれる呟きに、私は何も言い返せなかった。

かわりに、気まずさを逃れる為にようやくオードブルに手を付け始める。
恐らくヒラメであろう魚を口に含んだ。


「……芽久美」


けれど、味わう暇も与えられず、引き戻される。
私は手は休めずに聴覚だけを樹に譲る。


「奴はお前のクリスマス嫌いを治せるほどの奴ってことか?」


その問い掛けに、私は首を横に振る。


「違うのか?」

「……うん。もう、治ってたんだよ」


眉間に皺を寄せそうな、そんな一文字が聞こえて来そうだけれど、私は絶えず魚介と野菜の相手をする。
そろそろ本気で片付けないと、店員が痺れを切らして駆けつけそうだ。


“治せるほどの奴”
その表現は、完全に不正解なわけじゃない。


ただ、恋人じゃなくても、二人で過ごしたこと。

きっと、あの日から決まっていた。


私がクリスマスを預けた時点で、答えなんてひとつだけだった。
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