たったひとりの君にだけ
そして、私を横たえた。
「体温計、何処ですか」
そっと布団を掛けた後に、静かな声で問い掛けられる。
「……多分、そこ。1番下だったと思う」
2段チェストのベッドサイドテーブルを指差す。
だけど、次の瞬間、『え?』という驚きの一文字が耳に届いた。
「だったと思う、って、測ってないんですか?」
その発言に、口を尖らせながら反論する。
「だって、測らなくても熱あるって自覚してたから、わざわざ測って二重にダメージ喰らいたくなかったんだもん……」
滅多に取り出さない私にとっては、“思う”を末尾に付けることが明らかに自然だった。
そして、数字でも確認してしまったら、冗談抜きで救いようがない気がした。
「薬、飲みました?」
「……飲んでない」
「何処にありますか?」
「……ない」
「はっ!?」
懲りずに再び驚愕の一文字が飛び出る。
頭が痛い。
お願いだからボリュームダウンして。
「……何処にもないよ、そんなもの」
「じゃあ、何も飲んでないんですか?」
「だから今、薬買いに行こうとしてたの!あとは飲食物を調達しに」
「待って、芽久美さん、いつからこんな状態なんですか」
「……わかんない」
イライラしながらせめてもの返答を繰り返す。
今更なことを聞かないで。
本当にわからないから困っているのに。
記憶では瑠奈と別れた翌日は通常通りの自分だったような気もするけれど、念願の休みに突入すれば、時間の感覚をおざなりにしてしまうのも無理はない。
しかもしれが、普通の週末ならまだしも9連休ともなれば、私にしてみれば昼夜逆転だってありうるのだ。
休み明けは精神的より肉体的につらいことも多いくらいだ。