たったひとりの君にだけ

だけど、そんな御託を並べたって、結局は体調管理が出来なかった私の不注意だ。

視界を再度、腕で覆う。

あぁ、情けない。
まるで惨めそのもの。

高階君の特大の溜息も聞こえちゃうし、こんな奴に呆れられるなんて世も末だ。

もう、ひとりにしてほしい。



「……高階君、もう、私大丈夫だから。運んでくれてありがと。移ると大変だし、インフルかもしれないし、早く帰って」



これ以上、人様に迷惑を掛けたくない。

しかもそれが、高階充だなんて信じたくない。




「アホですか」



それなのに、見事な一刀両断に遭ってしまった私は憐れとしか言いようがない気がする。

思わず視界を覆っていた手を解いた。


「な、」

「芽久美さんってアホでしょ。こんな死にそうな状態の人を放っておけるほど、こう見えて俺ってそこまで非情じゃないんですよ」


反論しようと試みても呆気なく遮られた。
少なからずショックだったのは、バカにアホと言われたからであって。


バカとアホ。
どっちがマシだろう。


だけど、おっかない顔と怒りを含む声色に気付いて、10日ほど前の12月23日を思い出す。

そういえば、津軽弁でキレられたんだっけ。

何を言ってるのか全然わからなくて。
だけど、勢いのまま“好き”だなんて言われて。

かろうじて今は標準語だったけれど、半日前までは気兼ねなく故郷の言葉で話していたんだろうなと思う。

生まれ育った、温かなホームで。
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