たったひとりの君にだけ
「ってか、充!聞いて驚け!新しい眼鏡買ったぞ!」
「おお!おめでとう!見せろ!」
「無理だ!家にある!」
「ふざけるな!」
空気一転、どうでもいい話が聞こえて来る。
気のせいか。
そう思いたいだけか?
鼻の奥がツンとしそうなほどだったのに、一瞬でぶち壊しなんて空気が読めないにもほどがある。
「……学生の頃からこんな感じなんですか?」
騒がしい。
失礼を承知で、項垂れる勢いで私は片肘をつく。
すると、佑李さんは再度笑みを零す。
「はい、いつもこんな感じでした。二人とはゼミも一緒だったし、ムードメーカーでしたね」
口元に手を当てて、目尻を下げる。
きちんと顔を合わせて5分そこそこしか経っていないけれど、見た目だけではなく中身まで可愛らしい人だなと思った。
テンション高めのメガネ君にはもったいないんじゃないかと、本気で思ってしまうほど。
「……なんとなく想像出来ます」
「やっぱりそうですか?」
うるさい男性陣をよそに、佑李さんと私は小声で話す。
すると、彼女は、でも、と何かを言い掛ける。
私は顎から右手を離して、より一層耳を傾けた。
「……でも、直輝はうるさいだけだけど、充くんは本当に周囲に気を配れるし、優しいけど自分には厳しくて嘘はつかなくて。正直すぎて、将来痛い目に遭うんじゃないかって直輝と二人で話してたくらいで」
遠い目をした先、彼女は学生の頃を鮮明に思い返しているのだろうか。
息をするのももったいない気がして、私はナチュラルメイクの彼女に静かに見入る。
「私も直輝も、充くんにはとてもお世話になりました。そう言うと、充くんはお互い様だって笑い飛ばすけど、本当に、彼のおかげで大学生活とっても楽しかった。きっと、私達だけじゃなくて、みんなそう思ってます」
道端でメガネ君に会ったときを思い出す。
今の佑李さんは、あのときの彼と全く同じだ。
その瞳に優しさを浮かべて、感謝の気持ちを前面に高階君の自慢をする。
人間誰だって欠陥くらい持ち合わせていて、私はその宝庫なのに高階君はそうじゃなくて、笑い話のネタをひとつも提供しなかったことに劣等感さえ感じていた。
だけど、今ならわかる。
彼にも弱点はあるし、私みたいに傷付くのを恐れる普通の人間だってこと。
遠く遠くかけ離れていると思っていて、今もまだ追い着けない部分は沢山あるけれど。
抱き締められて思った。
こんなに近く感じられて、無限の幸せに浸れるのなら。
そんなことどうだっていい。
「充くんは、私達の大切な友人、……親友なんです」
誰にでもある欠陥がかき消されてしまうほどで、堂々と自慢話を繰り出せるほどの友人がいて。
これほどに、大切に想われている。
「だから、充くんと幸せになって下さい。きっと、笑顔が絶えないと思うから」
私は、そんな人に好かれていることを自信にしたい。