たったひとりの君にだけ
「芽久美さん」
顔を背けたままの私に、左側から降る穏やかな響き。
そこには既に、強気な姿勢も呆れた息遣いもなかった。
ただ、布団の中に潜り込ませた手が。
的確に私の手を探り当てて、そっと優しく握った。
「……頼って下さいよ。困ったときは」
その言葉に、行動に、39.2度の体の中心、胸が更に熱を上げた。
だけど、即座に言葉を返せなかった。
だって、どうして君を頼れるの。
ただのラーメン友達なのに。
「……そっちだってこんなに早く戻って来るなんて思わないよ。早過ぎでしょ。もっと雪国満喫しておいでよ」
「毎年こんな感じなんです。早いんですよ、俺。Uターンに巻き込まれる前に帰ろうと思って。あと、今年は予想外に雪がなかったんで雪かきを全くしない珍しい正月でした」
確かに、毎年テレビで見るあの公共機関の混雑具合には吐き気を覚える。
具合が悪い今は、より一層、私には相応しくない映像だ。