たったひとりの君にだけ
「じゃ、とりあえず俺、薬とか飲み物買って来ますから、大人しく寝てて下さい。鍵は何処ですか?」
高階君はすっと手を離した。
解放された瞬間、ゾクッと震えた。
きっと、高熱の所為で体中の感覚がおかしくなっている。
「……コートのポケットに入ってる」
ベッドに横になる前にゆっくりと脱がされたダウンジャケットを指差す。
私はその言葉に素直に従うことにした。
「借りますね。じゃ、行って来ます」
そして、彼は掛け布団を私の肩までしっかり被せて、寝室の扉を静かに閉めて出て行った。
数十分前と変わらない、静寂に包まれた無音の部屋。
思い切り息を吸って大きく吐いて、天井を見つめた。
優しさから、寝ててと言ってくれたんだろうけど、寝顔を見られたくない気持ちもあった。
自分の寝顔が目も当てられないほどにブサイクなことは知っている。
昔付き合っていた男に写真を撮られて、大喧嘩した直後に別れたことがあるくらいだ。
それくらい、嫌で嫌でしょうがない。
だけど、既にこんな醜態を晒して、部屋にまで入れて(しかも寝室)、もうどうにでもなれという思いの方が強かった。
ここまで堕ちたのなら、とことん堕ちてやろうじゃないの。
そう思った私は、諦めて瞼を閉じることにした。
いくら風邪をこじらせて弱ってるとはいえ、弱音を吐いてしまった自分を激しく後悔していた。