たったひとりの君にだけ
「で、いい加減3日前の話聞かせなさいよ」
ついに痺れを切らしたのか、再度厳しく睨まれる。
どうしてこんな目付きの悪い女に次々と男が出来るのだろう。
世の中の男共は確実に騙されている。
上手く話を逸らせたと思ったのに、見事に失敗した私は心の中でチッと舌打ちをした。
「わざわざ電話で報告して来たくせに、ここまで来てもったいぶるなんて卑怯よ」
「別にこっちから電話したわけじゃないし、第一報告したつもりもないし。瑠奈が長々と愚痴りたかっただけでしょ」
わかりやすく怯む彼女に畳み掛けるような言葉は浴びせないけれど。
何がどう転がって、クリスマスの翌朝に彼氏と別れるんだか。
「……まぁ、その話はこの際置いといて」
「都合よすぎ」
「うるっさいな!好きで別れたわけじゃないわ!アイツが悪いんだから!人の不幸話に耳を傾けるより、自分の物珍しい話をしなさいって言ってるの!」
隣の大学生が懲りずに再度ビビッている。
全国チェーンの居酒屋なんてやめておけばよかった。
年末の激安クーポンに釣られた自分が情けない。
一年の締め括り、女子二人の忘年会なんだから、いつものイタリアンの店「Quiete」に行けばよかったのだ。
きっと、マスターの大盤振る舞いで、ワインの一杯や二杯、軽く奢ってもらえたと思うのに。(瑠奈に任せたのがそもそもの間違いだったらしい)