たったひとりの君にだけ
目線で『飲めよ~』と強く訴える彼から、逃げるように視線を逸らす。
私の為を思っている、それは重々承知していても。
ハーゲンダッツ同様、絶対に譲れない。
(それにやっぱり今更効果ないと思うんだよね。だったら飲まなくてもいいでしょ)
「じゃ、俺、後片付けして来るので、寝ててもいいですよ」
渋々、ではないにしろ、白旗を揚げてくれたのは彼の方。
だけど、どうしてだろう。
助かったと思う反面、意識がハッキリしている中でそんなことを言われると一応身構えてしまうのは。
それはただ。
単純に、相手が自分に好意があるとわかっているからだろうか。
「どうしたんですか?」
なかなか上半身をベッドに沈めない私に、不思議に思ったのか問い掛ける。
そして、無言の私に気付いたのか、それとも察しがついたのか。
高階君は一人納得した様子の後で、ニコッと可愛らしく笑った。
「大丈夫です、寝てる人には手は出しません」
鏡も何もないし、熱がある所為で最初からそうだっただけかもしれないけれど。
顔が真っ赤に染まったのは間違いなくて、きっと、一瞬でも表面温度は数度上昇したと思う。