たったひとりの君にだけ
そして、暗がりの中、こちらに戻って来た彼は、ナイトテーブル上のランプを灯して、堅いフローリングの上に胡座をかいた。
「さて、なんの話をしましょう」
目がキラッキラと輝いている。
思いの外やる気満々な姿にほっと胸を撫で下ろした。
「TPP交渉について?秘密保護法について?それとも、アベノミクスの今後について?」
だけど、何かがおかしい。
どうして具合が悪くて倒れかけた人間に、そんな小難しい話題をチョイスするのだろう。
「……どうでもいいから、すっごい面白い話でも適当にしといてよ」
無茶なお願いpart2を口にして、私は体を横にする。
まだ薬は効いていないと思うけれど、胃が満たされた感覚で微かな睡魔に襲われた所為だ。
そんな私の横で、彼は少しだけ頭を捻って『よし!あの話にしよう!』と題目を決めたらしい。
そして、意気揚々と語り始めた。