たったひとりの君にだけ
「バッカないの。悪ふざけはやめて」
『ふざけてなんかねえよ。俺はやるときはやる男だ。でもさ、お互いいい大人なんだから、そんなことしたら恥ずかしいよな?メリットなんて皆無なんだから、いちいちそんなことさせるなよ、芽久美」
わざとらしく弱められた、自分の名前が心底腹立たしかった。
強引にもほどがある。
というか、単なる身勝手。
だけどある意味脅迫だ。
それなのに、たとえ一瞬でも妙な説得力に怖気づいた自分が情けない。
『どうする?』
そして、今も即座に言い返せないのは、その声色で決して冗談ではないと悟ったからだ。
この男、本気だと。
冗談抜きで、やりかねないと。
「……15分よ」
『短いな』
譲歩したのはこっちなのに、どうして責められないといけないのだろう。
「じゃあ行かないよ」
『だったら受付で叫ぶよ』
結局はそう言うだけ。
断れないように仕向けるだけの、単純かつ効果的な方法と自分自身がやるせない。
「……10分だからね」
『短くなってるっつうの』
「……うるさいな。ったく、ブラック頼んでおいて。時間もったいないから」
『わかったよ。3分で来いよ』
イラッとした私は電話を切った。
一体何様のつもりなの。
神様?仏様?樹様?
んな、バカな話があるかぁ!