たったひとりの君にだけ
カランコロンとベルが響いた後で、カウンターの中にいる個性的な眼鏡の店員が爽やかな声でいらっしゃいませと口にした。
私よりも幾らか若いといったところだろうか。
店内は昼時にしてはあまり人がいなくて、扉を一枚隔ててどこか落ち着いた雰囲気が漂っている。
流れる曲は、タイトルはわからないけれど店のインテリアに添ったクラシックだ。
「何名様ですか?」
黒いエプロンを纏った眼鏡店員が側に寄る。
「あ、いえ。待ち合わせてて、もうそこにいるので大丈夫です」
そう言って、私は観葉植物に隠れた奴をギロリと睨む。
見えないのをいいことに、それはそれは思いっ切り。
店員のビビッている顔など気にも留めない私は強気だ。
お前はバカかッ!
ただそれだけを言う為に、足を運んだと言っても過言ではない。
目の前でキツイ言葉を浴びせれば、受付の前で名前を叫ぶなんて暴挙には出ないだろう。