クローバー 家族
「初めてのデートでカルピスを飲んだのよ」


夏のギフトのシーズンになると聞かされた。我が家でのお中元のベストワンはカルピスの詰め合わせだった。
「へええ~?カルピス~?」

昭和39年ごろ、結構流行っていたらしい。
「おしゃれな飲み物だったんだよ。あの頃はね」

カルピスなんて安っぽい。ちょっとそんなことを思った自分が恥ずかしかった。そんな理由でカルピスの詰め合わせを選んでいたのかと思うと心が和む。



足の高いグラスに入った、真っ白なカルピスを喫茶店で味わう。それはその当時の若者にとっては、おしゃれな飲み物だった。喫茶店の次はボーリング場へと足を運ぶ。

父は18歳になると真っ先に車の免許を取り、カローラを買った。


腰まである長い髪の毛を垂らしてミニ丈のワンピースを着る母。
無精ひげを生やしてまるでおしゃれとは縁の遠い父親。

そのおしゃれとは縁遠い父が喫茶店で「おしゃれな」カルピスを飲んでいたのかと想像すると少し可笑しい。



そこではどんな会話をしていたのだろう?


二人とも亡くなってしまった。


もっと聞いておけばよかったな。


都会での暮らしは勝手が違って苦労したんだろうな。
今なら同じ女性として分かってあげることが出来るのに、母の苦労を一緒に考えてあげたらよかったな。





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