純情乙女の番外編
「あ」

目の前に見慣れた景色が飛び込んできた。近所の公園だ。

「こっ、ここでいいです」

佐々岡さんは何も言わず、公園のそばに車を停めた。

「あの、ありがとうございました」

あまり顔を見ないようにお礼を言ってドアを開けると、佐々岡さんはダッシュボードから何かを取り出した。

「ほら」

手渡されたものは、黒い折りたたみ傘。

「せっかく送ったのに、風邪引かれると困るから」

「えっ、あ、でもっ」

「いいから」

私が言い返す暇もなく、車は発進してしまった。



「…雨、止んでるんだけどな」

雨上がり独特の空気を吸い込みながら、私は傘を握りしめた。
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