少女達は夢に見た。
夜9時の着信。


〈今日は楽しかった!夏休み中にまた遊ぼう〉


柚奈からのメール。


ふと笑みがこぼれた自分を、ばかにするみたいにもう一度笑った。


律儀というかなんというか…。


遊んだ日には毎回、メールがくる。


メール自体ほぼ毎日してるけど…。


きっちりしすぎていて社交辞令じゃないのかと感じてしまうくらい。


でも、柚奈がいちいちそんな面倒くさいことを続けられるほど、大人じゃないってことも分かってる。


まわりに対する態度を見てればよく分かる。


面白いくらい、顔や行動に出てるんだもん。


即座に文を打って、読み返して、返信した。


そう。


私だって、大人なんかじゃない。





あれから数日。


8月に入ってしまった。


夏休みといっても、課題は多いし計画表なんて書かなきゃいけないし、あんまり楽しいことがあるわけでもない。


誰かさんみたいに夏期講習も入れてない私は、そろそろ引きこもりの1歩手前まで来ていた。


昨日も、確か一昨日も外に出ていない…気がする。


ちょっとまずいかもしれない…。


美術部は活動日少ないし。


今この瞬間だって、昼間だっていうのにテレビ見ながらボーっとしてるだけだし。


そんなとき。


一応手元に置いておいたケータイの着信がなった。


しかもメールじゃなくて電話のほうだ。


「誰だろう…」


かけてきている人が番号で表示されてる。


こんな番号、見たことないんだけどな。


変な緊張感を覚えながらも、通話ボタンを押した。


「…もしもし?」


ケータイ越しの音に耳をすませた。


「あ、一瑠?」


やんちゃそうな明るい声。


「友紀ちゃん?」


「あったりー!ね、今何してたの?」


そういえば…。


かなり前に番号を教えたような?


あー…。


メモをもらったのに友紀ちゃんの番号登録し忘れてた。


「別になにもしてないよ」


なんとなく、テレビを見てました、とは言いにくかった。


なんだろう。


この微妙すぎるプライドは。


「そうなの。あ、明日暇?」


「うん。暇だけど…」


「じゃあさ、一緒に勉強…じゃなくて、宿題教えてくれない?」


なんでわざわざ言い直したのかな。


一緒にやることにはかわりないと思うんだけど。


「うん、いいよ」


「やった!じゃあ待ち合わせは――」





電話を切り、小さくガッツポーズ。


よし、これで引きこもりにならなくてすむ。


それに宿題を進められるし、友紀ちゃんという友達にも会える。


一石二鳥ならぬ一石三鳥!

ん…?


そういえば友紀ちゃんは塾とか行ってないんだっけ?


余裕…あるようにも見えないけど、気にしてないのかな。



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