少女達は夢に見た。
そんなことを考えていると、私の部屋のドアがノックされた。
「お姉ちゃん?」
恵瑠だった。
少し、ホッとする。
「入ってきていいよ。」
「うん。」
お風呂上がりで、既にパジャマだった。
先程までの黒い感情が、すっと消えていく。
「あのさ、ハサミ持ってない?」
「ハサミ?」
思わず聞き返した。
「明日、授業で使うんだけどね、なくって。」
ああ、そうか。
「うん、分かった。ちょっと待ってね。」
ドアの前にたったまま、小さく首を縦にふった。
授業でハサミか…。
小学生らしいな。
勉強机の引き出しを漁る。
あった。
「はい。」
恵瑠に背を向けながら、刃先の方を向けないようにしてハサミを渡す。
「ありがと。」
「それ、あげるから。」
「え?」
若干散らかってしまった引き出しの中を整頓しながら答える。
「ハサミならもう一個あるし。」
「そうなんだ。じゃあ、もらっとく。」
私が2つも持っていたって使わないしね。
「あのさ、ちょっといい?」
「なに?」
相手だけ立たせたままなのも気が引ける。
指で隣に座るように示すと、素直に従った。
「なにか用?」
「うん、あのさ。」
視線を恵瑠から軽く外す。
「恵瑠って、好きな人…とかいる?」
「え、なにいきなり。」
笑って誤魔化す。
恵瑠の視線が痛かったけど…今、顔をましまじと見られるのは遠慮したい。
私がそんなことを考えていると、理由を聞くのは諦めてくれた。
痛かった視線が外されたのだ。
「…お姉ちゃん。」
先程より少し小さめの音量で。
「…なに。」
耳を傾けるために、向き直った。
向かい合う。
「お姉ちゃんが好きかな。」
笑顔で言う。
良い笑顔をありがとうございます。
じゃなくて!
「お姉ちゃんが言ってるのは、そういう意味じゃないんだけど。」
「じゃあ、どういう好き?」
「…は?」
「お姉ちゃんが説明して?」
コイツ…絶対分かってる。
絶対分かってて言ってるよな。
その笑顔は純粋に笑ってる顔じゃない。
でもここで「知らない」とか言ったらバカにされるのは目に見えてる。
「家族愛とかじゃなくて、恋人の方だよ…キスしたいとかって思う方の好き!」
あまり答えるまでに時間をかけたくなくて、出てきたのはそんなお幼稚な説明。
まあ…間違ってはいないよね。
「あ、そうだね。」
バカにしてる。
このすまし顔は人をバカにしてる顔だ。
これ以上、どうやって説明しろって言うんだよ。
私だってよくわかってないのにさ…。
「で、いるの?」
本題に戻す。
これ以上弟にバカにされたくない。
「なんでそれをお姉ちゃんに教えなきゃいけない?」
「ハサミ代。」
「なにそれ!?」
ずるい、とでも言いたげな顔。
「じゃあ、ハサミ返す。」
「返品不可。」
短く言い放つ。
自分でも理不尽なのは十分理解している。
「お姉ちゃんのいじわる。」
自覚済みです。
なにも言わずにそっぽを向いた。
短く小さな溜め息が背中にかかった。
「…いないよ。」
「…。」
「いないよ、好きな人なんて。」
私が反応できないでいると、
「ハサミ、ありがと。じゃあ、お休み。」
とだけ言って、自室に戻っていってしまった。
「お姉ちゃん?」
恵瑠だった。
少し、ホッとする。
「入ってきていいよ。」
「うん。」
お風呂上がりで、既にパジャマだった。
先程までの黒い感情が、すっと消えていく。
「あのさ、ハサミ持ってない?」
「ハサミ?」
思わず聞き返した。
「明日、授業で使うんだけどね、なくって。」
ああ、そうか。
「うん、分かった。ちょっと待ってね。」
ドアの前にたったまま、小さく首を縦にふった。
授業でハサミか…。
小学生らしいな。
勉強机の引き出しを漁る。
あった。
「はい。」
恵瑠に背を向けながら、刃先の方を向けないようにしてハサミを渡す。
「ありがと。」
「それ、あげるから。」
「え?」
若干散らかってしまった引き出しの中を整頓しながら答える。
「ハサミならもう一個あるし。」
「そうなんだ。じゃあ、もらっとく。」
私が2つも持っていたって使わないしね。
「あのさ、ちょっといい?」
「なに?」
相手だけ立たせたままなのも気が引ける。
指で隣に座るように示すと、素直に従った。
「なにか用?」
「うん、あのさ。」
視線を恵瑠から軽く外す。
「恵瑠って、好きな人…とかいる?」
「え、なにいきなり。」
笑って誤魔化す。
恵瑠の視線が痛かったけど…今、顔をましまじと見られるのは遠慮したい。
私がそんなことを考えていると、理由を聞くのは諦めてくれた。
痛かった視線が外されたのだ。
「…お姉ちゃん。」
先程より少し小さめの音量で。
「…なに。」
耳を傾けるために、向き直った。
向かい合う。
「お姉ちゃんが好きかな。」
笑顔で言う。
良い笑顔をありがとうございます。
じゃなくて!
「お姉ちゃんが言ってるのは、そういう意味じゃないんだけど。」
「じゃあ、どういう好き?」
「…は?」
「お姉ちゃんが説明して?」
コイツ…絶対分かってる。
絶対分かってて言ってるよな。
その笑顔は純粋に笑ってる顔じゃない。
でもここで「知らない」とか言ったらバカにされるのは目に見えてる。
「家族愛とかじゃなくて、恋人の方だよ…キスしたいとかって思う方の好き!」
あまり答えるまでに時間をかけたくなくて、出てきたのはそんなお幼稚な説明。
まあ…間違ってはいないよね。
「あ、そうだね。」
バカにしてる。
このすまし顔は人をバカにしてる顔だ。
これ以上、どうやって説明しろって言うんだよ。
私だってよくわかってないのにさ…。
「で、いるの?」
本題に戻す。
これ以上弟にバカにされたくない。
「なんでそれをお姉ちゃんに教えなきゃいけない?」
「ハサミ代。」
「なにそれ!?」
ずるい、とでも言いたげな顔。
「じゃあ、ハサミ返す。」
「返品不可。」
短く言い放つ。
自分でも理不尽なのは十分理解している。
「お姉ちゃんのいじわる。」
自覚済みです。
なにも言わずにそっぽを向いた。
短く小さな溜め息が背中にかかった。
「…いないよ。」
「…。」
「いないよ、好きな人なんて。」
私が反応できないでいると、
「ハサミ、ありがと。じゃあ、お休み。」
とだけ言って、自室に戻っていってしまった。