少女達は夢に見た。
あっと言う間に放課後になった。


柚奈に、


「じゃあ、待っててあげるから、練習、がんばってね。」


と、言うと、本当に嬉しそうに笑った。


美術部が終わるのが5時半で、バスケ部が終わるのが6時半頃なので、1時間近く待ってなければいけないわけだけど…。


この笑顔をみたら、もうそんなこと、全然かまわなかった。





「いち、はろ~!」


美術室に入ってきて私に明るい声をかけてくれた。


私のことを「いち」と呼ぶのは彼女だけ。


杉田夏菜穂(すぎたかなほ)。


クラスは違うけど、中学に上がって初めてできた友人。


「はろー。」


カナンとお喋りしながら絵の具の準備をする。


カナン…は、私が着けたあだ名。


最初こそ嫌がってたものの、すぐに定着した。


水道に向かうと、ある人物が目に留まった。


白くて、指の長い手。


目を奪われかける。


「長岡先輩、こんにちは。」


先輩は小さく返事をすると、自分の席についた。

相変わらずだな~。


長岡 千尋(ながおかちひろ)先輩は私の尊敬する先輩。


口数は少ないけど、彼女の綺麗な手で美しい絵が描かれていく様子を見るのが、大好きだった。


もともと絵が得意だったわけでもない私が、美術部に入部を決めた理由の1つ。


私が準備の手を止めて、長岡先輩を見つめる。


「なに突っ立ってるんですか。」


「わ!?」


いきなり後から声をかけられ、驚いて大きな声を出してしまった。


迷惑そうな視線と、なにかとても微笑ましいものを見るような視線が集まり、萎縮してしまう。


「驚かせないでよ、風見君。」


恥ずかしさから彼に当たると、眉をひそめた。


「そんな所で突っ立ってる方が悪いでしょ。」


小さく、しかしはっきりと私の耳に聞こえるように言う。


「はい、すみませんでした。」


素直に謝った私を横顔で笑う。


「睫毛長いな~。」なんて思いながら、その横顔を盗み見る。


彼が絵の具バケツに水をため終えて、席に戻ろうとしたところで、思い出した。


「そう言えば…さっきはよくも目をそらしてくれたわね。」


戻ろうとした足をピタリと止め、振り返る。


「…なんのことですか。」


あ、今変な間が空いた。

さては、とぼけてるな?

まあ、いいや。


「ちょっと傷ついたんだけど。」


眉を下げて悲しそうな声色を使ってみても、鼻で笑われた…。


なんでこの人は、こうも教室に居るときとの性格の差が激しいんだろう。

自分の席につくと、隣の席のカナンが楽しそうにニヤニヤしていた。


席は自由。


「どうかしたの?」


あきれ気味に問うてみる。


「えへへ。なんでもな~い。」


そう言えば…。


確かこの子も、教室に居るときと、部活のときで性格が変わるんだった。
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