少女達は夢に見た。
帰りの会中、ふと思った。


もしかしたら私は告白する本人よりそわそわしていたのかもしれない。


英語の時間以外は、柚奈のことを見ていた。


技術の時間。


パソコン室の右側一番後ろの席。


柚奈は向かいの席で、斜め後ろから、見ていた。

いつだって楽しそうな柚奈とは対象的に、私は、望ましくないことばかり考えている。


例えば、告白が断られればいいのに…とか。


時折目があって、手をふってきてくれる柚奈に、心臓を握り潰されるような思いだった。


こんなこと、考えてちゃいけない。


柚奈の幸せが一番なんだから。


あの屈託ない笑顔が、大好きなんだから。


でも理科の授業中も、結局柚奈の方を見ていた。

理科室だから、教室では柚奈より前の席で、見るのが難しいけど、それがない。


班になって、座る形で、私の座る位置からは、振り返らなくても全員が見渡せる。


柚奈から視線を外し、まわりを見渡した。


そのとき、歩乃香と目があったんだ。


私が微笑むと、どっかの誰かさんみたいにそらしたりしないで、微笑み返してくれた。


癒された。


英語は教室のため、生憎柚奈を見ることはできなかった。


それこそ、体育の時間は好きなだけ見てたけど。

気になって気になって、仕方なかった。


明日になれば、きっと二人は付き合うだろうから。


今日が最後だから。


柚奈とこんな関係でいられるのは最後。


確信があるわけじゃないのに。


直感的にそう感じた。


「起立。」


徐々に立ち上がる。


「さようなら。」


気だるそうな当番の挨拶。


適当に返す。


だから、楽しそうに笑う柚奈から視線を外してしまうことに、勿体ないなんて思ったんだ、きっと。


「一瑠ちゃん。」


私の顔を覗きこんできたのは、先程微笑み返してくれた彼女。


「あの、どうしたの……?」

少し控えめに、尋ねてきた。


え。


どこか変だったかな。


「えっと、あのね。なんだか…いつもと違うから。ごめん。」


考えていること、顔に出ていたみたいだ。


「そうだったっけ。」


柚奈が話に入ってきて、私の代わりに応える。

「柚奈…。」


歩乃香がそんな柚奈の名前を呟く。


「歩乃香はお世話やきさんだね。」


アキもそうやって、話に加わった。


若干荒々しく歩乃香の頭を撫でる。


「もう。アキったら。」

そういいながらも、歩乃香は少し嬉しそうに見えた。


本当に、私しか気づかないくらい、少し。


「じゃあ、早く帰ろうよ。」


そのやり取りをみて、柚奈は軽く笑いながら、言った。


「うん。帰ろう、柚奈。」


私に応えて頷いた。


「一瑠ちゃん。」


心配そうに呼ぶ。


「大丈夫。ありがとね、歩乃香。」


アキを真似…というより、千尋先輩のを真似るように、頭を撫でた。


安心させるため。


それに、ありがとうという気持ちを込めて。


「…うん。」


気持ちが伝わったのか、頷いて、微笑んでくれた。
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