少女達は夢に見た。
第4章 不安な心
「あき~。」


一時間目終了直後、振り返ってアキに泣きついた。


「どうしたいっちー!」


「私心折れた。」


真顔でそんなことを言う私に、アキは顔をひきつらせた。


「ど、どうしたの、二人とも。酷い顔。」


歩乃香が私達のもとにやって来て、言った。


「アンタのが酷いからね!?」


興奮気味にアキが突っ込む。


歩乃香はおくすことなく、華麗にスルーした。


泣き真似をして見せるアキ。


それすらもスルー。


なんかこの二人を見てるとコントみたい。


しばらくショートコントを披露してくれる。


ちょっと経って、


「あ、いっちーはどうしたの?」


忘れてた、みたいに振り返って言う。


「あ……
なんでもないや。」


なんだか、言いずらくなって。


不満そうな顔をされた。


そんなアキを不思議そうに歩乃香が見つめる。


「あ、柚奈のことか。」


ぽん、と拳を叩くテロップ通りの“分かったポーズ”をして、表情を晴れ晴れとさせた。


さらに不思議そうな顔をする歩乃香。


アキはそんな歩乃香を放置して、正解でしょ、と顔で言って来る。


「柚奈のことって、なんの話?」


「なんでもない、なんでもない!気にしないで。」


急に恥ずかしくなってきて、誤魔化した。


アキは少し面白そうに笑った。


「その話は、あとで聞くよ。歩乃香が居ないときに、ね。」


なんでこう余計なこと言うのかな…。


黙っといてくれればいいのに。


「な、なにそれ。」


ほら、食い付いてきた。


「なんでもないから。」


「そうそう、歩乃香には関係ないよ。」


せっかく私が話終わらせようとしたのに。


アキを睨みつけた。


「一瑠ちゃん?聞かせてくれるよね?」


アキのせいで歩乃香はもう食い下がってくれない。


休み時間終了まであと1分。


「え、いや、あのですね。」


それまでなんとか引き延ばせば…!


「……一瑠ちゃん。」


下から顔を覗き込まれる。


怖い。


静かな怒りがひしひしと伝わってくる。


私が困っているのを見て、アキは笑いを堪(こら)えていた。


この恨みはいつか3倍にして返そう。


いつもの恩返しは別にして。


そう密かに心を決めたところで、学級委員が「席ついて。」、という呼びかけをした。


良かった。


これで助かる。


そう思ったのに、


「一瑠ちゃん。この話は後でゆっくり聞かせてもらうね。もちろん、アキが居ない時に。」



歩乃香のマーガレットの笑顔に、未だかつてないほどの恐怖を覚えた。


席に着いて、柚奈の方を見ると、まだ斉藤組と話していた。


金曜から、一切柚奈とはコミュニケーションをとっていない。


毎日していたメールも。

なのに、当たり前のように柚奈は斉藤組といる。

いや、柚奈はもう斉藤組なんだ。


斉藤さんが柚奈のことをよく思っていなくても。


柚奈は斉藤さんに影で嫌われている希美ちゃんと、菜々ちゃん、かおりちゃんと同じなんだ。


柚奈がそのつもりでも、絶対引き戻す。


柚奈が斎藤組で、私とはただのクラスメートだなんて……


希美ちゃん、菜々ちゃん、かおりちゃんと同じなんて……


絶対に嫌だ。
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