少女達は夢に見た。
数学の時間、珍しく先生が柚奈を当てた。


先生が生徒を当てるのは別に珍しくない。


風見君なんかよく当てられてる。


でも柚奈みたいにちょっと苦手な子を当てるのは珍しい。


あーあ。


お気の毒様。


なんて思いながら柚奈を見ていた。


案の定分からなかったみたいで、あたふたしながらも適当な答えを言う。


先生が「違う。」って一言。


それに当てずっぽうな答えを。


そんなやり取りを繰り返して、クラス皆はおかしそうに笑っていた。


先生も、柚奈も。


私も。


やっぱり、柚奈は人気者。


よくもまあ、あんな子が親友だったよ。


そんな風にすら、思える。




次の授業は理科で、移動だった。


いつもだったら柚奈と行動する。


だけどしばらくはアキと歩乃香と3人で行動することになりそうだ。


2人が私達の事情を知ってる分、一緒に行動するのにも気を使われてるような気がして心苦しい。


「所でさっきの話なんだけどさ、一瑠ちゃん。」


あ、覚えてたんだ。


にこやかに聞く歩乃香に、これは素直に言うしかないと思った。


「今日一緒に遊べないかな?」


「え?」


意外な言葉に聞き返す。

アキも解せないといった面持ちだ。


「その時に聞かせてね。」


微妙な間が空いてから、

「歩乃香、ぼくが言ったこと根に持ってるよね。」


「え?あっ、そっかー。アキは今日部活だったから一緒に遊べないね。残念。」


歩乃香の言葉にアキが絶句した。


「で、遊べる?」


隣で呆気にとられていたらふいに聞かれる。


「え、あ、えっと……うん。」


返答に困る私をまるで子犬のような瞳で見つめてくるから、頷かざるを得なかった。


終わった。


自分の首を絞めてしまった。


「失礼します。」


3人で理科室に入ったのに明るく挨拶をしたのは歩乃香だけだった。


「じゃあ、家についたらメールするね。」


「うん。」


視線をそらした私をアキが後から肩を2回叩いてきた。


“ドンマイ”


アキ……。


振り返るとアキはもう自分の席に向かっていた。

よくよく考えたら私、歩乃香と2人で遊ぶの初めてじゃない?


いつもは4人でいて、アキや柚奈が盛り上げるから、間が持たなかったらどうしょうか。


私も歩乃香もそんなに喋らないし。


大丈夫かな。


ずっと柚奈のことを聞かれたらたまらない。





思い切って、柚奈に声をかけたらどうなるだろう。


そんなことを思いついたのは昼休みが始まった頃。


アキと歩乃香は給食当番だから今は教室に1人きり。


そんなとき、違うクラスの女子がドアの前で顔を出して、誰かを探していたのが目に入った。


あれは……確か愛ちゃんだ。


柚奈の部活友達。


手には数学の教科書を持っている。


「愛ちゃん、どうしたの?」


周りに人がいなくて困っていたようで、駆け寄って声をかけた。
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