少女達は夢に見た。
昼休み終了後。


私は教科書片手に教室の入口付近でターゲットを待ち構えていた。


ターゲット…いわずもがな柚奈のことだ。


別に教室で待っていてもよかったのだけれど、前回の二の舞にはなりたくない。


会話の内容を聞かれるのは極力避けたかった。


前方から斉藤組が来る。


あいかわらずの圧倒感。


大人数で横一列になるのはやめてほしい。


そのなかにいる柚奈を確認して。


鼓動が速くなる。


「柚奈、これ。」


教室に入ってしまわない内に引き止めた。


他の斉藤組はぞろぞろと教室に入っていく。


柚奈は冷たい目付きで教科書を一瞥(いちべつ)してから、私の顔をみた。


この間と同じ反応に胸が苦しくなる。


「愛ちゃんから。昼休み来たんだけど、柚奈、いなかったから預かったの。」


それに押し潰されないように、必死で喋った。


柚奈は黙って受け取る。

なんで、こんな態度とられなきゃいけないんだろ。


「私、柚奈に何かした?」


振り払われるのが怖かったから、肩は掴まなかった。


無視されるのも、薄々見えてたから、うつむいて。


「なにも。」


上から冷えきった声が降ってきた。


顔を上げたら、私の方が目線が高いのに。


「じゃあ、なんで避けるの。」


柚奈の眉間あたりを見ながら、肝心のことを尋ねる。


案の定、黙り混む。


無視されて、教室に戻られる方が嫌だけど。


問いつめそうになるのを堪えて、返事をまつ。


長すぎる間をおかせて言った。

「一瑠は、悪くないから。」


私が声を発する前に、柚奈は教室に入った。


「じゃあ、なんで避けるのよ。」


そう呟いても、心では、安心していた。


薄情だと、思った。


自分が悪くないと知った途端に、安心するなんて。


だけど今回は、泣かなかった。


五時間目が始まる前に、教室に戻る。


歩乃香が訝しむように、私を見てきた。





帰り道は今日も一人。


アキと歩乃香は方向が違うし、


1組は終わるのが他のクラスよりも早いから、特に約束している訳でもない人を待つのもやりにくさがあったから。


家に帰って、歩乃香にメールをした。


二人とも、特に何処に行きたいという要望もなかったので、私の家に来て遊ぶことになった。


まだ15時23分。


時間的余裕はある。


むしろ、2時間近くもの間、間を繋げられるか、ということの方が気がかりだった。


歩乃香が来る前に、軽く部屋を掃除する。


見られて困るようなものはでていないはずだ。


干しっぱなしの下着とか…。


部屋掃除を終え、それからすぐチャイムが鳴った。


急いで玄関に向かう。


「いらっしゃい。」


そう言いながら、ドアを開けた。


「あ、うん。」


「私服、可愛いね。」


「え。あ、ありがと。」

淡いピンクのいかにも女の子らしいレースのついたトップス。


それに、髪の毛と同じあま色のスカート。


靴だって、なんかキラキラしてるし。


こういうのなんて言うんだっけ。


ミュール?


自分の着ている服と比べて、悲しくなった。
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