少女達は夢に見た。
部屋まで案内して、


「あんまり綺麗じゃないけどさ、楽にしていいよ。」


お決まりの台詞を言って、適当な所に座らせる。

「飲み物、お茶とスポーツドリンクと水道水とめんつゆ、何がいい。」


「お構い無く。て、今なんか変なのなかった?」

これもお決まりの台詞。

だって冷蔵庫開けると同じ場所にあるし。


「めんつゆがいいの?」

真顔で聞く。


「お、お茶でお願いします。」


正座したまま、改まったように言う。


「お茶ね、分かった。適当に寛いでてよ。」


「うん。」


歩乃香はアキと違って、部屋に残しても棚をあさったりしないだろうし。

安心して部屋に残せるな。


一階へ階段をまた降りて、キッチンでお茶をコップに注ぐ。


お盆を持っていくべきか迷ったけど、お菓子を出す訳じゃないし、別に要らないだろう。


コップを2つ持って階段を上がるまではよかった。

しかし。


どうするんだ、これ。


手にはそれぞれお茶の入ったコップ。


これではドアノブが回せない。


ちょっと危険だかコップを腕に挟むか。


コップを持ち直そうとしたとき、


なぜかドアが開いた。


まだ手をかけていないのに。


「大丈夫?」


歩乃香の気遣いに、感動した。





「で、早速本題なんだけどさ。」


しみじみしながらお茶をすすっていると、歩乃香の方から口を開いた。


どきりとして、コップを机に置く。


「柚奈と、何があったの。」


「うーんと…。」


何があったのだろう。


私にも、分からない。


私が答えに困っていると、質問を変えた。


「心当たりは?」


心当たり…。


もう一度お茶を一口飲んで、


「一つだけ、ある。」


いまいちハッキリとした理由が分からないけど。

これは…歩乃香に話してもいいものだろうか。


悩んだあげくに、


「歩乃香はさ、柚奈の好きな人って知ってた?」

ためらいがちに聞いた。

知っているなら、楽なんだけど。


「ううん。」


どうやら知らなかったらしい。


「柚奈、好きな人なんて居たんだね。」


それどころか、そのことさえ知らなかったと言う。


「そうなんだ。」


どうやって話を進めようか。


「えーと、それで、ね。」


つっかえつっかえになりながらも、話を続ける。

「告白、したの。柚奈が、その人に。多分木曜日。」


「ホントに!?」


心底驚いた顔をしてから、少し考える仕草をする。


「柚奈は、私は悪くないから、って言ってた。」

「そうなんだ…。」


歩乃香になら、柚奈の気持ちがわかるだろうか。

私には分からない、柚奈の気持ちが。


「しばらくは、様子見だね。」


なにを考えての言葉か。

歩乃香は、そう言いながらも、時折ぶつぶつと呟いている。


「…歩乃香?」


「柚奈がそう言ってくれてるなら、きっと大丈夫だよ。一瑠ちゃん。」


考え込んでいた表情から、うって変わって、笑顔を向けた。


だけどその笑顔は、なにか陰りがあるような、


そう。


いつかの柚奈の笑顔と被ったのだ。

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