少女達は夢に見た。
彼は静かに近づいてきた。


体が、こわばる。


時計の秒針の音が聞こえた。


「…なにかしました?」

なにもしてないよ。


いつもより力ない声色に、そう言ってしまいたくなる。


近づかないで欲しいのに、風見君は私の机の前まで来て、


「言ってくれないと、わかりませんよ。」


まっすぐに言った。


目を合わせたらいけない。


思いきり顔をそらす。


そんな私の態度を見て、諦めて離れてくれた。


「後で、聞かせてもらいますから。」


「…え?」


そう言ったかと思うと、

「失礼します。」


一年の子が入ってきた。

私と目があった彼女は、遠慮がちに、こんにちは、と言う。


助かった、と言うべきだろうか。






しだいに部員が集まってきて。


「ハロー、いち。」


「あ、ハロー。」


カナンも隣の席に座って、やっと安心できた。


やっぱり、人を無視するなんて慣れないことは、あまりしない方が無難だ。


気分良くないし。


「ああぁぁ…。」


深すぎる溜め息。


もはや唸り声。


「どうした?」


「女はツラいよ。」


「は?」


ツライよ。


今私がしてることは、


柚奈が私にしたことと同じなんだから。


なんだか。


自分の中で天使と悪魔で、真っぷたつに別れちゃったみたい。


想像したらちょっと笑える。


こんなときに下らないことを考えて、


私ってば、まだ余裕があるのかな。


…事情くらい、話してもいいよね?


そんな結論に至る。





「で、話、聞かせてください。」


部活終了の挨拶をして。

まだ誰も動いていない間に、風見君は真っ先に私の机の前。


「いち、どういうこと?」


カナンが耳元で本人に聞こえないように言う。


部員の視線も集まる。


ああもう!


変な勘違いされたら堪らないよ。


「ちょっと来て!」


そう思って風見君を廊下まで引っ張った。


引っ張ったけど…。


「で?」


不機嫌そうな風見君。


人気の無い廊下にふたりきり。


これってまるで、


私が告白するみたいじゃん…。


急に恥ずかしくなって、顔がどんどんほてっていく。


それに、さっきのあの状況で引っ張っていったら

余計に勘違いされるに決まってる。


バカだ私。


ひとまず落ち着かせて、

「柚奈のこと、どう思ってる?」


単刀直入に、聞いた。


それだけで察しの良い彼は話が見えたみたいだ。

「波多瀬さんから聞いたんですか。」


「うん。」


嫌そうな顔。


頭を軽くかく。


「クラスメートとしか、思ってませんよ。そうとしか思えませんね。」


濁らすことなく、はっきりと言った。


圧倒されて、次の言葉が出てこない。


これは、私にとって良い答えなのだろうか。


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