少女達は夢に見た。
良い答えなんだろうな。

柚奈に彼氏なんて嫌だもの。


「そのことで怒ってるんですか。」


だとしたら呆れます。


風見君の言い方はそんなニュアンスだ。


別に、告白を断ったことについてとやかく言うつもりはさらさらない。


むしろとばっちりを受けたことに対して怒ってる。


「もしかして、余計なことまで聞いちゃいました?」


「なんのこと?」


「聞いてないならいいんです。」


額と目を片手でさするように覆う。


照れたみたいな仕草に、心当りを覚えた。


「ごめん、聞いちゃった。」


風見君の片手がぴたりと止まる。


顔が隠されて表情が分かりにくい。


彼が私をタイプだとか言ったことは本気になどしていない。


冷静に考えれば、柚奈の気持ちを諦めさせるためのものだったてことぐらいわかる。


わかるよ。


聞いたときは動揺しちゃったけど。


それでも半分は信じてしまっている気持ちがあって。


だからこんな反応をされると、本気だったのかと思ってしまう。


「告白断るのに私を使うのは止めてね。」


それを隠したくてさりげない嘘をついた。


「はい?」


「柚奈に勘違いされたくないの。だからしばらくは風見君のこと無視するから!」


口にした後で完璧な口実だと思った。


「それって…。」


「なに。」


「別に断るために一瑠さんを使ったつもりじゃないんです。」


隠していた手をどける。

「だったらなに。そんなに柚奈を傷つけたかった?」


その言葉で柚奈は傷ついた。


余計なことを言わなければよかったんだ。


そうだったら、


無視されることも、無視しなきゃいけなくなることも無かった。


「自業自得なんだよ、風見君の。」


「自分でも浅はかだったと思ってます。」


私の小さな呟きに、ぎりぎり聞き取れる位の声でかえす。


酷く癇(かん)にさわる。


私はまだ彼を許してない。


柚奈を傷つけたこと。


激情が掘り起こされる。

「波多瀬さんを傷つけるつもりはありませんでした。」


ついに逆鱗に触れた。


「つもりはなかった、てなによ?つもりはなくてもそうなったの。言った言葉は戻ってこない!謝ったって泣いたって、柚奈の記憶からは消せない!!」


「私の記憶からも消せない。…きっと、許せない。」


私が口を閉じると静まり返る廊下。


言いたいだけ言った。


言ってしまった。


戻ってこないのは、私の言葉だって同じ。


風見君は苦虫を噛み潰したみたいな顔して、私の方を見ようともしない。

「言い過ぎたとは思ってないよ。」


やけに優しい声色で言って、風見君の元を後にした。


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