少女達は夢に見た。
そんな私とは対称的に、恵瑠はふてくされた様な顔をしている。


あれ。


昔は仲良かったのに。


照れてるのかな?


「まあ、ゆっくりしていってね。真琴ちゃん。」

そう言い残して自室に向かった。


冷やかしてやろうかとも思ったけど、真琴ちゃんの手前、それはしなかった。


ただ単純に自分の弟なのに、私よりも恋愛…みたいなものを満喫しているということが、


姉としてはジェラシーだった。





でも…いいか。


柚奈と仲直りできそうだし。


ちょっとだけ、風見君には悪いことをしたかもしれない。


でも、いいよね?


これくらい。





その日も柚奈は斉藤組だった。


しかし、帰りの会中、


“話があるから放課後部活終わっても待ってて。”


と。


久し振りに柚奈から話しかけてくれたことを喜ぶべきか。


部活中、風見君が私に話しかけてくることは無かった。


目も合わせなかった。





だけど、


「ねぇ、一瑠?あたしとの約束…破った?」


なんで私は柚奈にこんなことを言われているんだろう。


部活を終えた柚奈と、体育館の前を少し外した所で話していた。


「昨日は喋っちゃったけど、もう話すつもりないよ?」


そう言っても、柚奈は浮かない表情をする。


「なんでそんな風に思ったの?」


理由もなく心配になったのだろうか。


「美術部のこが、言ってたの…。」


あちゃー。


やられた、まさしくそんな心境だ。


「これからは避けるって、伝えただけたから。」

美術部のこが勘違いしちゃったのか。


誰だよ柚奈に教えた奴。

まさかカナンじゃないよね。


「そう…なんだ。」


「うん。だから、安心して?」


柚奈は作った様なひきつった笑顔を浮かべた。


今はそれで、安心するしかない。


「良かった。一瑠に裏切られなくて。」


柚奈が、怖い、と思った。


恋愛は、こんなにも人を変えてしまうものなのか。


「あたし、一瑠のこと、信じるよ。」


怖いのに…


「言ったでしょう?もう柚奈を不安にさせるようなこともしないから。」

そのはずなのに。


私は、笑顔でそう言っていた。


恋愛じゃなくても、私はこんなに変わってしまう。


「そうだよね。あたしの初恋の人を、一瑠が盗るわけないよね。」


初恋の人、か。


私の初恋の人は誰だったろうか。


「さあ、帰ろうよ。」


「…え?」


「一緒に帰るんじゃないの?」


一緒に帰る…


柚奈と?


「うん!」


一緒に、帰れるんだ。

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