少女達は夢に見た。
「友紀ちゃん」


「なに?一瑠」


一瑠、か。


なんだか慣れないな。


「一つ、提案があるんだけど」


「なになに?」


昨日の夜、考え付いたこと。


聞き入れてもらえるか、心配だったけど、友紀ちゃんはその提案に食らいついた。


にやにやと、楽しそうに笑う。


「それ、いいかも」





休み時間終了のチャイムが鳴るまで、私達は廊下の隅で話し込んでいた。

友紀ちゃんは名残惜しそうに、自分の教室へと帰る。


「じゃあまたね、友紀ちゃん」


「うん。また昼休みに来るよ」


「え……。」


スキップになりきれていない、変な弾みかたで去って行く後ろ姿。


昼休みも来るのか。


私アキたちと図書室行きたいんだけどな……。


でもなんだか、友紀ちゃんと友達になれたような気がして嬉しい。


“一瑠”なんてふうに私を呼ぶ人、あんまりいないから。


斎藤さんや、カナンが怒ったときにはそう呼ばれたりはするけど。


その呼び捨てとは少し、意味が違う。


親しみを込めて、そうしてもらえたような……。

友紀ちゃんは、そんなこと、思ってないかも知れないけど。


「いっちーって、あのこと仲良かったっけ?」


席につくと同時に、1つ後ろの席に座るアキが言ってきた。


もうほとんどの人が席についていたから、少しだけ焦る。


柚奈はもう席に戻っていた。


「友紀ちゃんのこと?」

イスをずらして、体をアキに向ける。


「そう。意外だよね。いっちーの苦手なタイプじゃなかったけ?」


「うーん……。苦手なタイプだけど、友紀ちゃんはわりと好きかな。」


「ほう?」


にたにたとした、嫌な笑み浮かべ、わざとらしく聞き返す。


私なにか変なこと言ったのかな。


言ってないよね……?


アキの思考力には、たまについていけない。


なにか見越したのかな。


それとも私を馬鹿にしているだけなのか。


「なにかおかしかった?」


「何でもありませーん」
  

間延びした返事は、やっぱり私をからかって、馬鹿にしているみたいだった。





翌日の放課後。


正確には諸活動終了時刻。


そろそろお約束になってきた3送会会議が開かれる。


先輩たちも、さすがに私達が部活終了後、何をやっているか気づいているみたいで、少しやりにくさも感じる。


「なんか前回は休んじゃって、その前も色々ごめん。」


黒板の前に立った友紀ちゃんの、第一声がそれだった。


私達は意外な言葉に固まる。


「でもちゃんとやるから、皆にも、協力して欲しい。」


風見君に目線を送り、それから渡辺君、カナン、私、1年生のこたちと、一人一人に。


「別にいいですよ?先輩方のことは尊敬していますし、感謝もしていますから。」


風見君が、ハッキリと友紀ちゃんに合意した。


渡辺君も、「まあいいんじゃねぇの?」と、納得してくれた様だった。


ふと友紀ちゃんと目が合う。


深く頷くと、


驚いたような顔をしていた友紀ちゃんは、たちまち笑顔になった。



よかったね、友紀ちゃん。



< 80 / 106 >

この作品をシェア

pagetop