少女達は夢に見た。
「ではさっそく!」


大きな音を立てて、黒板前の長い机を叩く。


どこぞの熱血教師。


「M口さんから匿名で提案があります!」


皆が一斉に私のほうを見た。


ねぇ友紀ちゃん


それわざとやってるの?


匿名の意味分かってないな。


冷ややかな目をしてみせても、友紀ちゃんはニコニコ笑ったまま続ける。

「演劇は演劇でも、人形劇に、したいと思います!」


再び皆が固まった。


ただ一人だけ、友紀ちゃんが満足げに歯をキラリ。


カナンが私の腕を小突き、耳うちした。


「いち、なに言ったの?」


「え。な、なにって…」

眉をひそめた冷えきった顔で訊くから、ただでさえ人の顔見て話すのが苦手な私は、斜め下に視線をそらす。


別に悪いことなんかしてないよね。


私はただ、“人形劇にしたら?”って、提案しただけだもん。


だってそっちの方が楽そうだし。


それに皆もそっちの方がやりやすいかなって思っただけで…。


言い訳めいた思考におちいる私の横、カナンがぼそり、呟いた。


「つまり友紀は劇がやれればなんでもいいわけね」


怖い。


言い方が、雰囲気が


怖いのよ、カナン。


「友紀ちゃんと…昔、なにかあったの?」


私の問いに、頬杖をついていた顔を持ち上げた。

その動作はやけにスローで、私を怯えさせるには十分すぎるほどの禍々しいオーラを滲ませている。


「一瑠はどう思う?」


友紀ちゃんの言葉に空気が、切り替わる。


話を聞き流していたのがバレたわけではなさそうだ。


カナンとの話中に聞こえてきた単語を思いだし、瞬間的に適当な答えを導きだす。


「や、やっぱり他にないシナリオでやりたいよね」


確かシナリオの話をしていたはず。


「……は?」


「なにか違った?」


動揺がバレないように毅然とした態度で。


だけど頬の筋肉がひきつる。


カナンが隣で嫌な笑みを浮かべているのが分かる。


ムカつくほどに。


「ごめん!聞いてなかった…」


友紀ちゃんはわざとらしい溜め息をして、やれやれ、と首をふり、「仕方ないなー」と一言。


誰かのふきだす声がした。


まわりにさりげなく視線移せば、皆笑いを含んだ目でこちらを伺っている。


もう!


カナンのせいでいらぬ恥をかいちゃったじゃないか…!





「まあでも人形劇の方が美術的要素がありますし、どちらかといえば人形重視なのでやりやすいと思いますよ」


風見君の一言でそれは決定した。


発言力あるな、彼。


でも中心にいるのは友紀ちゃん。


こういう技、心理学になかったっけ?


最初に難しいものをいっておいて、次にハードルを下げた要求をして相手を納得させる…


詐欺師の常套手段?


友紀ちゃんは詐欺師だったのか!?


「じゃあ一瑠は友紀と一緒にシナリオ作り手伝ってね。また練り直すから」


「私?」


「シナリオできるまで、会議は無しねー」


無視。


友紀ちゃんに無視された…。


しかも、なんで皆異存なしみたいな顔してるの。

「シナリオはみんなできめるんじゃないの?」


せめてもの反抗も


「一瑠はみんなの代表だから」


あっさりとかわされてしまった。


言い出しっぺが責任とれ

つまりそういうことですか。


どうやらやるしかないみたいだ。

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