少女達は夢に見た。
ちょっと小さめの古びた無人駅で降りる。


私達が住んでいる町は、まあまあ田舎な方だけど

その町から4、5駅ほどのここは


とんでもなく田舎だ。


まず見渡すかぎり山。


いや…見渡すかぎりではないな。


しかも山の方にお墓がたくさん見える。


あとはちょくちょく民家があるくらいか。


あと農家とまではいかないけど小さな畑みたいのがある。


「ザ・田舎って感じだね」

「同感」


眩しい太陽に目を細めながら言った柚奈に心から同意した。


「見て見て!このポスト縦型だよ!?」


いきなり駆け出したかと思ったら、もう10メートルは先にいる。


はしゃぐ子供…。


「あ。ほんとだ。懐かしいね」


だけど、確かにそこにあるひどく色あせた赤色のポストは、今どき珍しい筒の形をしていて、つい感心。


「でも柚奈、行くのそっちじゃないから」


「え?」





ここ周辺には、祖父のお墓があって、そのため車では何度か来たことがある。


山の方に見えるのが多分それだ。


だから実は道なんかの記憶は曖昧。


でもちゃんと地図は見てきたし…。


初めて上京してきた田舎もんみたいに


いちいち目に写るものに歓声のような反応が隣から聞こえる。


この場合、その例えとは全く意味が逆になるのだが…まあいいだろう。


でも柚奈


正直、田舎もんがさらに田舎を見てびっくりするのはちょっと恥ずかしいよ?


楽しんでくれてるみたいだから、いちいちそんなことを言うつもりはないけど。


20分くらい歩いた所で、ようやくコンビニエンスストアを見つけた。


ここまで来て、道が違っていたらどうしよう……。


いちいち聞こえてくる楽しげな歓声に、私もいちいち焦っていた。


そんなことに、柚奈が気づくわけもない。


「ねぇねぇねぇどこに向かってるのー?」


「まだなーいしょ」


「一瑠の頑固ー」


「なんとでもおっしゃい」


実はちゃんとたどり着ける自信がないから目的地を言えない…


というのも“ないしょ”の意味に含まれてたりする。


「たーのしみだなー!」

本物の田舎を味わう余裕なんて、私には無かったんだよ。


だけどね


無邪気な柚奈を、可愛いな…と思いながら微笑ましくなる余裕なら、ありました。





それから、さらに歩き、なんとか目的地に辿り着いた。


パカッと開くタイプの自分のケータイで時刻を確認したら、


少なくとも駅に着いてから30分は経っていた。


正確な時間はわからないけど、立ち止まると足がジンジンするから、もっと歩いてきたのかもしれない。


あいかわらず最初のテンションのままで跳んだり跳ねたりする柚奈。


「はは…元気だね」


呟いてから、青い空を見上げた。


吸い込まれそうなスカイブルーに疲れも感じなくなる。


もう一度自分のいつもの視界に戻ったとき


なんだかとてもすがすがしかった。


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