少女達は夢に見た。
「海のばっきゃーろーう!!」


期待通りの反応をしてくれる。


やっぱり柚奈はできる子だ…!


目の前には空とはまた違う青さを放つ海が広がっていた。


人は…いない。


なぜならここは泳ぐの禁止で魚もろくに釣れないらしいから。


漫画やアニメで見るような広々とした砂浜があるわけでもないのだ。


海がある県だからといって、泳げる海が近場にあるかと聞かれれば答えはNO。


「ばっきゃーろばっきゃーろのてやんでいが!!」

……犬なのかな。


「こんちくしょうめ!!」

「こんなところで喜んでもらえて良かったよ」


これでも近所にある海…とも呼びづらい漁港よりは幾分かまし。


晴れ晴れとした顔でふりかえって、にいっと笑った。


「貸し切り貸し切り!」


「そうだね」


「ねぇねぇあれやろうよ!」


服の袖を引っ張った。


のびるのびる。


「あれってなに?」


「砂浜で、まてまて~ってやつ!!」


ああ。


よく恋人同士でやるあれか。


恋人は恋人でもかなり恥ずかしいカップルがやる…。


想像してみる。


柚奈が走るのを追いかける私。


つっかまえてごらーんなさーい、と逃げる柚奈。

追いかける私。


「や…やだ!」


「えーなんで」


つかまえられる気がしないよ。


美術部の体力なめんな!

「じゃああたしが追いかけるから」


「なおさら嫌だよ」


そんなのすぐにつかまる。


「そもそもなんでそんなことしなきゃいけないの。恥ずかしいからやだ」

「さすが一瑠…」


「彼氏が出来たらやるといいよ」


そんなことに付き合ってくれる彼氏ができたらね。


柚奈が黙って砂浜にしゃがみこんだ。


私もしゃがむ。


微妙な沈黙が流れた。


中三になったらいよいよ受験。


そうしたら、きっと今みたいに頻繁に遊んだり出来なくなるんだろうな。

高校も、きっと離れる。

本当は柚奈と同じ高校に行きたいけど……いや、行きたくない。


高校生になって、新しい友達ができて、そんな柚奈と私を比べて惨めな気持ちになるのが嫌なのかもしれない。


柚奈の背中を見ながらそんなことを考える私は、重いのかな…。


「柚奈」


「ん?」


「柚奈は、将来の夢とかないの?」


「うーん…一瑠は?」


「まだ無いかな」


実はあったりする。


だけど言わない。


恥ずかしいし。


保育士とか、看護師とか、小学生に人気の職業ランキングに出てくるような職業なら、言っても恥ずかしくないのに。


「高校とかは?どこ目指してる?」


高校か…。


あんまり気分上がらないな。


「とりあえず公立で」


私立は学費が高いイメージだし。


「公立ねぇ…」


「柚奈は?」


私が同じ質問をすると、急に静かになった。



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