少女達は夢に見た。
「進路の話なんて、中二風情がすることじゃないよね」


自嘲気味に、そう笑った。


「確かに。あんまり盛り上がるものでもないね」

今が、一番楽しい気がする。


いやだな。


中三になるのも、卒業するのも、高校生になっちゃうのも。


「じゃあ中二らしく中二な話をしよう」


これ以上楽しみでもない先のことをああだこうだ考えたくなくて、柚奈に提案した。


「中二な話?」


「ん。なんか盛り上がるような話」


しゃがんでいた柚奈の足元に海水が追う。


「うわ!?」


素早く立ち上がったけど、ちょっと濡れちゃったみたいだ。


自分の所まで来ないか心配で、私も立ち上がった。


「いいよしようか。中二らしい話!」


いきなり振り返ったからちょっとびっくり。


かと思えばさきほど自分のいた場所を睨み付けた。


「な、なにやってんの?」


「月の引力…我が漆黒の翼を抉りこの地へと追いやった怨み…はらさでおくべきか!」


「……なにやってんの?」


もう一度、今度は呆れを込めて尋ねる。


「え?中二な話」


純心無垢。


二重の大きな目をパチパチ。


わざとらしく引いたようた態度を見せてから、空気を吸い込んだ。


「意味が違う!!」





「だって一瑠が中二な話をしようって言ったじゃん」


「そっちの中二じゃない…。私は中学2年生らしい話をしようって意味で言ったの」


「中学2年生らしい話って?恋バナ?」


「恋バナ…する?」


これもいまいち盛り上がれないと思うけどな。


でも柚奈に訊きたいことがあった。


いいや。


訊いてしまえ。


「柚奈って今好きな人いる?」


内心、すごくビクビクしてたけど、さも“興味ないけどとりあえず訊いてみた”ように平静を装った。


ん?


なんでビクビクしなきゃいけないんだろう…。


「えー…?一瑠でしょ?アキ、歩乃香、愛ちゃん、」


「意味が違う」


誰がこの流れで友人として好きな人を訊くんだ。

柚奈はまだたくさん“好きな人”がいたらしかったけど、途中で遮った。

「意中の殿方はいらっしゃいますか?」


若干の嫌味を込め訊き直す。


「いらっしゃいません!!」


「そうですかー」


素でボケてたのか、もしくははぐらかそうとしてたのか…はたまた、おちょくりたかっただけなのか。


どれかは訊かないことにしよう。


十中八九、素でボケてただけだと思うから。


それに、


もしそうじゃなかったとしたら、


きっと私は傷つく。


柚奈が言った、“好きな人はいない”と言った言葉を、


疑いもせずに、


そのまま鵜のみにしてしまった方が幸せだから。

結局私は、


春からなにも変わっちゃいなかったんだ。


むしろ――。


「恋は一瞬、友は一生ってね!」


友の明るい声が、私の暗い思考を斬った。


「はいはい良かったですねー」


静かに柚奈の言葉が脳内で反響する。


「だから…」


そんな私の左手首を柚奈が掴み、高く掲げた。


な、なに?


「これからもよろしくねーー!!」


私に向かってじゃなくて、水平線に向かって叫んだ柚奈の横顔が


少しだけ、照れたみたいで…。


「こちらこそ」


隣にいる柚奈にも聞こえないくらい、小さな声で、呟いた。



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