少女達は夢に見た。
「でもちょっと意外かな」


私がそう言ったところでティラミスが二皿運ばれてきた。


若い女のひとの店員さんに軽く会釈をする。


向かいの席ではニッコリと笑って「どうも」と言う柚奈に、店員さんも微笑みかえしていて、


ちょっと傷ついた。


あいさつとか、お礼とか、ちょっとしたときに私は咄嗟に声が出てこない。


いつでも愛嬌たっぷりのみんなに好かれる柚奈に、ほんの少し、嫉妬してしまった。


そんな自分が情けない。

「なんで?」


いきなり柚奈からの質問。


「なにが?」


「なんで意外なの?」


ああ、その話か。


ちまちま運ばれてきたティラミスを味わいながら話を再開させる。


「てっきり人の好き嫌いとかないと思ってたから」


「あたしが?」


「うん。だれとでも仲良くできる感じ」


事実そう見える。


斉藤さんとか、一部の人にはそれが気に食わないみたいだけど。


そういう人達はノーカウント。


「嫌いな人…結構いるよ?」


「え、だれ?」


「おしえなーい」


うっかりふて腐れたような顔をしてしまっていたらしい私に、柚奈は笑って付け加えた。


「大丈夫。一瑠のことは好きだから」


そこで私も好きだと言えないのが私。


恥ずかしいようなこともスラッといいのけてしまうんだから、なんか悔しい。


しかもそれを、他の人にもたくさん言ってるんだろうな。





「一瑠は嫌いな人とかいないの?」


「特には…」


斉藤さんみたいな人達は苦手だけど、嫌いというほどじゃない。


私の答えにあからさまに面白くなさそうな顔をした。


「ばーか」


「ひどい!」


「あーほ」


さすがに理不尽で、しょぼくれた顔をしてみたら、満足気に笑われた。


「意味わかんない」


でもにやけてしまう。


柚奈が本当に楽しそうにするから。


「わからなくて結構」


「ひどいなー」


それから2時間くらい、そこに居すわった。


まわりにいた他のお客さんもいつの間にか入れ替わっていて。


ちょっと迷惑な客だったかもしれないけど、店員さん、どうか許してほしい。





「やればできるって、結構言い訳に使われるけど、柚奈は本当にやればできるよね」


行き場がなくなった私達は、とくに目的地もなくふらふらと歩きながらおしゃべりを楽しんでいた。


「まあ今回はさすがにね」


「毎回それくらいやってればもっと順位も上がると思うんだけど」


「それは嫌」


成績に頓着ないんだろうな。


マイペースというか、怠け者というか。


柚奈らしいと言えば柚奈らしい。


「一瑠、服部さんに勉強教えてたでしょ」


「うん、そうだよ」


やっぱり知ってたのか。

まあそりゃ教室の入口であんなことやれば誰でも分かるよね。


「だから」


俯きながらだったから、その3文字もうまく聞き取れなかったけど、なんとか分かった。


「なにが?」


でも掴めない。


“だから”ってなにが?


「なんでもないよ!一瑠のばーか」


い…意味がわからない。

いきなり走り出した柚奈を、必死になって追いかけた。


なんなんだ、本当。



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