あたしの心、人混みに塗れて
「あと、とも」

「なに?」


蒼ちゃんが、今度はあたしの顔の上を見ていた。


「おでこのファンデ、浮いてるよー」

「うっそ!」


あたしは慌てておでこを押さえた。


ファンデ浮きは一番最悪!


「まあ、前髪で隠れてるからわかりづらいけど、今日彼氏とデートでしょ? 後で直しときな」

「ん。ありがと……」


ほんと、蒼ちゃんには敵わない。


小さなことも気づいてくれるから。


それこそ、女の子じゃないとわからないような。


「じゃね。とも、夜ご飯は?」

「たぶん、あたしの方が早いよ。蒼ちゃん、今日部活でしょ?」

「うん。遅くなったら連絡するー」


大学に着いて、あたし達はそれぞれの講義のある教室へと向かった。


あたしは経済学部。蒼ちゃんは理学部。


あたし、相模智子と、蒼ちゃんこと川島蒼大は、幼なじみだ。


家が隣同士で、幼稚園の頃からずっと一緒で仲良しだった。それは、小中学校になっても変わらず、高校も大学も同じだ。


しかも大学に至っては、二人して県外の同じ大学を受験して合格してしまったのだから、それぞれの親はそれはそれは驚いた。


別に、あたし達はどちらかが合わせたとかそういうことはなくて、本当に、偶然同じ大学に進んだのだ。学部はさすがに違うけど。


大学生になったあたし達は、親元を離れて今は二人で暮らしている。これは二人の両親も合意したことだ。


二人で暮らすとなれば、部屋は二つなければいけないけど、家賃は半分ずつ出せばいいから、そんなに負担にならない、むしろ一人暮らしより安く生活できる。


それに、あたし達は親同士もほぼ親友みたいなもので、お互いの子供を信用している。だからこそ成り立った今の生活。


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