あたしの心、人混みに塗れて
「ちょ、ちょ、か、母さん、それって…………」

『ともに新しい兄弟ができまーす』

「い、いや、そうじゃなくて、母さん、あの」

『慎也と絢也も意外に喜んでくれたのよ。とも、嬉しくない?』

「そ、そりゃ嬉しいよ。ずっと妹欲しかったし。で、でも、母さんあなたいくつよ」

『39よ。高齢出産ではないから安心して』

「今、何ヶ月なわけ?」

『ちょうど四ヶ月よ。父さんも舞い上がっちゃって、会社ですっ転んだって』

「父さん、もうすぐ50なのに情けない…………」


はあ、とため息を一つつく。でも、素直に嬉しい。


「母さん、おめでとう」

『ありがとう。ともも妊娠しておかしくない時期なのに、先取りしちゃってごめんね』

「や、謝ることじゃないでしょ。それに、あたしはまだまだだし」


そう言いながら、あたしは喉の奥に何かがつかえる感覚を覚えた。


ごめんね、母さん。


『そう? 母さんの娘なんだから、そろそろ何かあってもおかしくないわよ』

「え?」

『血は争えないからね。ま、母さんが産むまでは我慢してね。大変だから』


それだけ言って、母さんはご機嫌に電話を切った。


……何それ。


「ともママ、どうしたの? やけに驚いてたけど」


アイスを食べ終えた蒼ちゃんが紅茶を啜って笑っていた。


「ああ……うん」


言ってもいいよね、母さん。


我が家の一大事は、川島家の一大事って昔から言われてきたし。


「母さん……妊娠したって」

「えおっ!?」


変な声を出して、蒼ちゃんは目を丸くさせた。


19の娘がいる親が、って思うよねえ、普通。蒼ちゃんの反応を見て、あたしは思わず苦笑を漏らした。


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