あたしの心、人混みに塗れて
蒼ちゃんの机の上にはパソコンが起動してあった。


「蒼ちゃん、課題やってたの?」

「まあね。でももう終わったから」


蒼ちゃんがパソコンをシャットダウンさせた。


あたしは蒼ちゃんの布団に潜り込んだ。


物心ついた当時、母さんは生まれたばかりの双子の世話が忙しくて、父さんもその頃仕事が終わるのは午前様を過ぎるくらい多忙で、正直あたしは我が家のお荷物でしかなかった。そんなあたしを見咎めた蒼ちゃんのお母さんはよく川島家に泊まらせてくれた。蒼ちゃんはよくあたしの眠っている布団に潜り込んできた。


逆にあたしから蒼ちゃんの布団に潜り込むことは稀だったけど、その時は蒼ちゃんはあたしを抱きしめてくれた。


『ママがね、しんとけんにばっかり構うから……』

『しかたないよ。だって、しんちゃんとけんちゃんはまだあかちゃんだもん。ともみたいにひとりじゃたてないし、ごはんもたべられないんだよ』

『わかってるよ。でも…………』


子供心にわかっていた。母さんを独占しているのは、自分一人では生きていけない赤ちゃん達で、その赤ちゃん達に罪はないのだと。


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