あたしの心、人混みに塗れて
「電気、消すよー」

「…………ん」


部屋が暗闇に包まれる。


ベッドが軋んだ。そして蒼ちゃんが布団に潜り込んできた。


ドクッとあたしの心臓が跳ねた。


それを悟られたくなくて、あたしは体を丸めてギュッと目をつぶった。


「そんな警戒されると、ちょっと傷付くなあ」


蒼ちゃんの体があたしの背中に密着して、あたしは息を止めた。


「大丈夫。何もしないから……」


体を強張らせたあたしの耳元で蒼ちゃんが囁いて、あたしの体に腕を回す。


蒼ちゃんの熱い息が耳にかかって心臓がうるさい。これじゃあとても眠れなさそうだ。


声を出すことすらままならない。


「蒼…………ちゃん」

「ん……?」

「あたし……」

「うん」

「母さんが妊娠したことは嬉しいよ。すごく嬉しいの。妹が欲しかったし、年の離れた兄弟に、憧れもあったから…………」

「うん」

「でも、あたし…………あたし」


言葉が詰まる。どういう言葉だったら伝わるのだろう。


「…………ショックも受けてた」


搾り出すような声は、弱々しく口元から離れていった。


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