あたしの心、人混みに塗れて
「あたしの中で父さんと母さんは『親』だった。あたしを育ててくれる親。少なくともあたしの前では、二人はあたしの親だった」


蒼ちゃんは何も言わない。あたしは腹に回った蒼ちゃんの手を握っていた。


「でも、二人は本当は『男』と『女』だった。異性を好きになって、セックスをする」


考えてしまった。二人がそういうことをして、母さんはお腹に子を宿した。


妊娠するということはそういうことだ。


あたしを育ててくれた親は、人間だ。当然そういうことをしなければ子孫を残せない。


頭ではわかっている。でも、あたしの前では『親』でいてほしかったのだ。


二人に『男』と『女』という局面を見せてほしくなかった。


脳裏に二人がそういうことをしているシーンをどうしても思い浮かべてしまって、反吐が出そうだ。


あたしはなんて最低な娘だろう。


「とも」


泣きそうになっていたら、蒼ちゃんが耳元で囁いた。


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