あたしの心、人混みに塗れて
「あんの野郎…………」


あたしの隣で千晶が低く唸っていた。


「千晶……怖いよ」

「まじありえねえ。私が言ったこと忘れたのか、しばいたろか、あのくそオカマ」

「…………」


今日は千晶の家に泊まることになった。


今は寝る前で、布団に入ってあたしの話をしていた。


何でも話せる仲とはいえ、真っ昼間から「あの話」ができるほどあたしは出来上がっている人間ではない。


だから、一人暮らししている千晶の家に泊まって話すことにした。


「あの話」とは、あたしが酔っ払って蒼ちゃんにキスされたあの夜のこと。


それを話したら、千晶は意外にも激怒していた。


「……なんで怒るの?」

「あ? 決まってるでしょ、智子を傷つけたからよ!」


「智子を傷付けるなって言ったのに!」と、千晶はそれはそれはかなりご立腹の様子だ。


…………って、は?


「それ、蒼ちゃんに言ったの?」

「そうよ。教育学部と理学部でよく横飲みしてるって言ったでしょ?」


「その時、川島くんと話したことがあってね」千晶は寝転びながら缶チューハイを煽った。


「ふうん……」


あたしは曖昧に頷きながら、これも缶チューハイを煽った。ただ、あたしはレモン味、千晶は桃だけど。


「何、疑ってんの? 私と川島くんに何かあるかって」

「……いや、別に」

「疑ってるよね、すごい疑ってるよね。あのね、私達はほんとに何もないって。一度飲み会で話しただけ。仮に好きになったとしても、私は智子には絶対敵わないんだから」


ため息をついて、千晶はぼそぼそと話し始めた。


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