あたしの心、人混みに塗れて
千晶の話を聞きながら、あたしはわからなくなっていた。


蒼ちゃんがわからない。ますますわからない。


「川島くんは智子が大事で、智子も川島くんが大事。つまりはそういうことでしょ?」

「…………うん?」

「川島くんに何があったかはわからない。今すぐにでも目の前に連れてきてぶっ飛ばしてやりたいくらい腹立ってるわよ。………でもね」


今まで荒げた千晶の声が急に低くなった。


「川島くんが何を考えてるのかは私にもわからない。智子の側にいるから余計わからない。でもね、世の中ってのは強く思うほど歪んでくることもあるの」

「……何それ」

「私も少しはそういうことを経験しているからわかるんだけど、好き同士でもどうしても『ずれ』が生じてくるの。違う人間で、異性で、考え方も価値観も違うから当たり前だけど、そのずれは目に見えなくても少しずつ時間をかけてできるの。最初はあんなに仲良しだったのにっていうカップルが別れるのってよくあるでしょ。あれはそういうこと。別れるだけならまだいい。それがめんどくさいことに発展することだってある。それが、歪み」

「………………んーと、いまいち理解できないんだけど」

「つまり、お互いを大事に思えば思うほど相手を傷付けることもあるってこと。ま、許されることではないけど、仕方ないこともある。それが世の中の道理だから。二人がこうなったのは、それが原因だと私は思うけど」


あたしは黙っていた。


蒼ちゃんに何があったのか。何が蒼ちゃんをああさせたのか。


あたしにはわからない。


ただ、あたしの気持ちは以前とは確実に変わっていて、それが今のあたし達の関係をも変えてきている。それだけはなんとか理解している。


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