あたしの心、人混みに塗れて
部屋の電気が消えて千晶が眠ったとわかって、何度も寝返りを打つけどあたしはいっこうに眠れる気配はなかった。
 

──『聞かない方がよかったって思うかも』


千晶の言う通りだった。


千晶はあたしのためを思って言ってくれたのに。


そして、千晶はあたしが悩むことをわかってて言うことをだいぶ躊躇っていたのに。


あたしは、本当にばかだ。


『その子は理学部の人から聞いたらしいの。もちろん公言はしてないけど理学部の中じゃけっこう暗黙の事実として広まっていて、だから理学部の人達は二人に手を出せないんだって。二人は入学当初から仲がよくて、二人のいろんな事情が重なってそういう関係になったとか。その事情ってのはみんなわからないらしいけど』


千晶の話が蘇ってくる。


『……いくら好きな人でも、汚い面は見たくないよね』


千晶は独り言のように呟いた。


それが果たして『汚い』ことになるのだろうか。あたしに判断はできない。


でも、聞かなければよかったのだ。


蒼ちゃんのそんなところなど、あたしは知らなければよかったのだ。


知らぬが仏。その通りだ。


蒼ちゃんが美人とセフレ? セフレって、セックスフレンドのことだよね。セックスをする、友達のこと。


蒼ちゃんが美人を抱くの? ほんの少し想像しただけで反吐が出そうだった。


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