あたしの心、人混みに塗れて
胃がきりきりと痛み出した。口の中にすっぱいものが迫り出してあたしはそれを必死に飲み込んだ。


気持ち悪い。


飲み込むことが苦痛であたしは思わず涙を流していた。


歯を食いしばって溢れそうな嗚咽を堪える。


気持ち悪い。きもちわるい。キモチワルイ。


頭がおかしくなりそうだ。


あたしに触れたあの手は既に他の女に触れた手だったのだ。


大人になればそれはごく自然なことだろう。でも、あたし達はまだ20歳と19歳で、あたしには過去のことだとその事実を流せるほど大人ではない。


もしかしたら今もその人を抱いているのかもしれない。


家にあたしがいるというのに、彼はどうやってあたしの目をかい潜ってそんなことをしていたのだろうか。今まで蒼ちゃんをそんな目で見たことがなかったから、気にもしたことなかった。


蒼ちゃんに憤りを覚える。


怒っても仕方ないのに。美人のセフレに嫉妬しても仕方ないのに。


じゃあ、なんであたしにキスしたのよ。そういうものはセフレで事足りるでしょ?


「もう無理」って何が無理よ。あたしに矛先を向けないでよ。気まぐれであたしに触れたりしないでよ。


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