あたしの心、人混みに塗れて
「……ただいま」


あれから頭の中でぐるぐると延々と考えを巡らせていっこうに眠れず、結局一睡もできずに千晶の家を出て我が家に帰ってきた。


10時を過ぎているというのに、家の中は静まり返っていた。人の気配もない。


出掛けているのだろうか、いや、玄関には蒼ちゃんの靴があった。スニーカーもブーツもあった。蒼ちゃんは家にいる。


こういうことは珍しい。休みの日でも蒼ちゃんは遅くとも9時前には起きてきて午前中のうちに家事をこなす。お昼を過ぎてからようやく起きるあたしとは違って健康的な人なのだ。


「……蒼ちゃん?」


蒼ちゃんだって人間なのだからそりゃあ寝過ごすこともあるだろうと思ってそっと蒼ちゃんの部屋のドアを開ける。


蒼ちゃんは、寝ていた。


「……んあ? ともお?」


あたしに気付いた蒼ちゃんはベッドから起き上がって立ち上がろうとしたけど、フラッとよろめいたからあたしは慌てて駆け寄って蒼ちゃんの体を支えた。


「……あ、ごめんねえ」


弱々しく笑った蒼ちゃんの頬は真っ赤だった。まさかと思って蒼ちゃんのおでこに手を当てると、明らかにいつもより熱かった。


「蒼ちゃん、熱……」

「んー、昨日の夜からちょっとだるかったんだよねえ。それで起きたら頭も痛いし」

「風邪じゃん。寝てなよ」


あたしは蒼ちゃんをベッドに寝かせた。寝転んだ蒼ちゃんはじっとあたしを見つめた。


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