あたしの心、人混みに塗れて
「確かこの部屋に風邪薬置いてあったよね。蒼ちゃん、朝ご飯食べた?」

「……食べてない」

「雑炊でいい?」

「……ん」

「わかった。作ってくるからちょっと待ってて」


あたしは蒼ちゃんの頭を撫でてから部屋を出た。台所の炊飯器の中を覗くと冷やご飯がたっぷりあった。あたしも朝ご飯まだだから二人分作っちゃおう。


小さなお鍋の中に二人分のご飯を入れて水を注いでから火にかける。温まったらだしの素を入れて卵をといて回しかける。卵に火が通ればあっという間に出来上がりだ。器に盛りつけて仕上げに塩昆布を少し乗せた。


「蒼ちゃん、できたよー」


お椀を二つ持って蒼ちゃんの部屋に入る。蒼ちゃんが起き上がった。


「ともは相変わらず作るのが早いねえ」

「これくらい誰でも早いよ」


ローテーブルの上にお椀を乗せると、蒼ちゃんが湯気に目を細めて「おいしそう」と呟いた。


「あたしも一緒に食べるね」

「ちぇ。食べさせてくれないのー?」

「しません。蒼ちゃん、もう二十歳でしょ」


蒼ちゃんを口を尖らせながらレンゲで雑炊を少しずつ食べ始めた。その蒼ちゃんを横目で見ながら、あたしは心の中で謝った。


蒼ちゃんが具合が悪い中、千晶と悪いこと言っちゃってすみませんでした。


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