あたしの心、人混みに塗れて
たっぷり時間をかけて雑炊を食べ終えた蒼ちゃんは、あたしの手から水の入ったコップと風邪薬を受け取った。


「ね、飲みづらいから口移ししてくれる?」

「しません」


弱っているのか甘えたな蒼ちゃんはいつもより過激なことを口にする。あたしは内心ドキドキしながらそれをあしらった。


ていうか、口移しの方法知らないし。前されたけど、自分からできるとは思えないし。


まず自分の口に薬を入れるでしょ。それから相手の口の中に…………え、どうやったら相手の口の中に薬が入るんだ?


モヤモヤと考えただけで恥ずかしくなってきたから、慌てて考えるのをやめた。


「とものけちー。俺、病人なんですけどー」


ぶうーと口を尖らせて拗ねる蒼ちゃんを可愛いと思わない人間はいないであろう。


「ご飯食べれたんだし、それくらいのことを言えるんだったら大丈夫」


「はい、さっさと飲む」と、あくまで平然を装ってあたしは食器を台所に持って行く。


「ね、とも」

「何?」

「こっち、来て」


蒼ちゃんに呼ばれたから、洗うのは諦めて流しに食器を置いて蒼ちゃんの部屋に戻る。


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