あたしの心、人混みに塗れて
あたしは握られている手に視線を落とした。蒼ちゃんの手は熱かった。あたしの手をギュッと握っていて、まるで離すまいと言っているようだった。


「俺ね、ともの手けっこう好きだよ」

「は?」


いきなり何を言い出すんだ、この病人は。


「ともって体は大きいのに、手は小さいでしょ。それに、指が短くて爪が丸っこい」

「……悪口?」


なんだかけなされているようにしか聞こえないんだけど。これでもけっこう悩んでるのに。悩んだところで自分の手が細長くなるわけでもないから半分諦めてるけどさ。


「違うよ。他の女の子って、細長い指の子が多いでしょ。俺、ちょっと苦手なの。爪も尖ってるし、なんか攻撃されそうで」

「……そうですか」


蒼ちゃんはいつも傍にいる女の子をそんな目で見ていたのか。なんだかその子達が少し可哀相だ。


「それに比べてともの手って優しい感じだなって。俺、手だけ見せられてもともだって見分けられる自信あるよ」

「……そりゃあ、どうも」


嬉しいような悲しいような。喜んでいいんだか悪いんだか。


蒼ちゃんの指がもぞもぞと動いてあたしの指と絡んだ。手の甲を滑る蒼ちゃんの指も熱かった。


そう言う蒼ちゃんの手があたしより大きいことに気付いた。お互いの手なんて気にすることがなかったから今まで気付かなかったけど、蒼ちゃんの手はあたしの手を包み込めるほどに大きくなっていた。ごつごつしていて、男らしい手だった。


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