あたしの心、人混みに塗れて
ふと顔を上げると、じっとこっちを見ている蒼ちゃんと目が合った。


その目はとろんとしていて、わずかに潤んでいる。


「蒼ちゃん、寝なきゃ治らないよ」

「ん…………」


あたしの手を握っている反対の手があたしの目の下に触れた。


「隈……できてる」

「ああ、千晶が昨日寝かせてくれなくて」

「ふふっ、何それ」


まあ、直接的ではないとはいえ、嘘ではない。


わずかに綻ばせた口元を一瞬で戻した蒼ちゃんは目元の指を移動させて、指を髪の毛に絡ませてあたしの頭の後ろに触れた。


蒼ちゃんはあたしの頭をゆっくりと引き寄せた。


唇が重なったのは、決して予想外なことではなかった。昨日の夜、千晶と話しているときから蒼ちゃんに触れたかった。蒼ちゃんの部屋に入って傍にいるときもずっと蒼ちゃんとキスをしたくなっていた。


蒼ちゃんの唇が柔らかく触れて、ゆっくり開かれた。あたしの下唇を甘噛みするように包み込まれる。ぴくりと反応すると、それを追いかけるように唇が重なる。蒼ちゃんの唇と吐息が熱い。


上唇も同じように甘く噛んであたしの唇を味わって、蒼ちゃんの舌が少しずつあたしの唇を開かせた。舌もすごく熱い。あたしの唇が溶けてしまいそうだと思った。


咥内で二人の舌が絡み合う。ぞくりと体が震えた。


「ふっ…………ぁ」


吐息が漏れる。それと同時に無意識に声が漏れて、羞恥でカッと顔が熱くなった。


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