あたしの心、人混みに塗れて
恥ずかしくなって思わず顔を離すと、目が合った蒼ちゃんがくっと含み笑いを浮かべた。


「何恥ずかしがってんの」

「……だって」

「今更じゃん」


……なんですか、今更って。


蒼ちゃんが体を少し起こしてあたしの頬に手を当てた。


「蒼ちゃん……寝てなきゃ」

「寝かせてくれないのはともでしょ?」


蒼ちゃんの言葉に言い返せないのが悔しい。まさか、キスが気持ち良くて風邪を引いている蒼ちゃんを受け入れていたなんて言えない。


蒼ちゃんが顔を近づけておでこを合わせた。


「可愛い顔……もっと見せて」


そう呟いた蒼ちゃんが再びあたしの唇を塞ぐ。


その口づけに、あたしはただ受け入れることしかできなかった。


あたしの咥内が蒼ちゃんの舌に犯されていく。二人の舌が絡み合うと、ゆっくりと浸透していく毒みたいに、あたしは動くことができなかった。


何をしているんだろう、あたし達は。


なんでキスなんかしているんだろう。したいと思って容易にできるものではない。なのに、今蒼ちゃんのキスをあたしは受け入れている。


ねえ、なんでこんなことをしているの? あたしは蒼ちゃんの何?


こんな優しいキスなんてしないで。他の女の子にもしているとしたら、同じことをあたしにもしないで。あたしは他の女の子と同じような存在? 蒼ちゃんにとって特別でもなんでもないの?


自然と閉じていた目をそっと開けると、蒼ちゃんの閉じた目から涙が一筋こぼれ落ちるのを見た。



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