あたしの心、人混みに塗れて
「つまり、母さん、始めからそのつもりだったわけね……」

「当たり前じゃない。盛りのついた若い男女二人を一つ屋根の下に暮らさせて何もないなんて考えないわよ。むしろ、何もない方が異常よ。まあ、もちろん父さんにはそんなこと言わなかったけどね。相当心配してたし」

「や、父さんの反応が自然でしょ……」

「自分が二十歳で妊娠して結婚したからね、そういうことはどんどんやっていいと思ってんのよ。まあ、学生のうちに妊娠はさすがにやばいから気をつけてねって言うつもりではいたけど。別に悪いことではないと思うのよ。遅かれ早かれみんな経験していくものだし、娘にはちゃんと好きな人と経験して欲しいって思って勧めたの。母さん、意外と考えてるのよ」


確かに母さんの言うことは一理あるかもしれない。あたし自身、初めてはどうでもいい男ではなくてちゃんと思い合っている人とやりたいと思っているし、することそのものを悪いことだとは思わない。


まあ、ただ、やっぱり母さんの考えはちょっとずれてると思うけど。


「手遅れにならないうちに、さっさと蒼大くんに抱かれちゃいなさい」


母さんの言葉に思わず苦笑いを浮かべるしかなかった。


そっと母さんの腹に手を置く。その膨らみに、生きているのだと思える。


「あ、動いた」


あたしの手の下で鼓動を感じた。母さんは笑みを浮かべた。


「とものことがわかったのかもね」

「お姉ちゃん、待ってるからねー」


あたしも笑みを漏らしてお腹に話しかけると、また鼓動を感じた気がした。


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