あたしの心、人混みに塗れて
次の日、あたしが爆睡していると、ふと違和感を覚えた。


髪をかきあげられて、ひんやりとしたものが首のあたりをなぞっている。


「ん……?」


うっすらと目を開けると、人影が見えた。


「蒼ちゃん……?」

「あ、起きた」


蒼ちゃんがあたしの顔を覗き込んで笑っていた。


「何してんの……」

「ともは相変わらず無防備だねえー」

「は……?」

「何回起こしても起きなかったから、俺もうプレゼントつけちゃったよ」

「はい?」


起き上がると、首もとにひやりと冷たいものに気付いた。視線を下ろすと、青い石が肌に触れていた。


「二十歳、おめでとう、とも」


わけがわからなくなって目を見開いてパクパクと口を開いているあたしを見て、蒼ちゃんはニッコリと笑った。


「蒼ちゃん、あの、これって…………」

「んー? サファイアだよ。9月の誕生石」

「んなーーーーっ!!!!」


さ、さふぁ、サファイア!?


あの、ダイヤモンドとか宝石がいっぱいある店で見たことがある(あたしにはどれがどの石か見分けもつかないけど)、あのサファイア!? 超高級な!?


「……と言いたいとこだけど、これはラピスラズリっていう石。外国じゃ、サファイアと並んで9月の誕生石なんだって」

「そ、そう…………」

「さすがにサファイアは買えないよー。ちょっとともには悪いと思ったけど、でもちゃんとしたお店で買ったやつだからさ」

「……ありがと、蒼ちゃん」

「どういたしまして」


蒼ちゃんはあたしの首に腕を回してラピスラズリのネックレスを一旦外してあたしに手渡した。その青い石は、太陽の光に照らされて輝いていた。


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