あたしの心、人混みに塗れて
「姉ちゃん、蒼兄ちゃん元気?」


慎也が聞いてきてあたしはまたどきりとしてしまう。


「う、ん…………」


元気なことは、元気だ。


思い出したくない。あんなことをされたなんて。気付かれたくもない。


程なくして蒼ちゃんから返信が来た。


「…………母さん」

「何?」

「今からこっち来るって」

「誰が?」

「蒼ちゃん」


今日平日なんですけど。しかも蒼ちゃん今日5限まであるはずなんですけど。


「あら、大変。絢と慎、お菓子買ってきて」

「え、心配事そこなの?」

「あっちからどれくらいで来れるっけ?」

「夜行バスは無理だから、新幹線だと二時間もしないけど……」

「いけない、急いで買ってきて」

「母さん、心配するとこそこじゃないでしょ……」


サボること心配しろよ、そこ。


言われるなり、絢也と慎也はそそくさと病室を出て行った。


「もう、蒼ちゃんは家族みたいなもんなんだから別にいいのに」

「授業サボってまで来てくれるんだからそれくらいはしないとね」

「三日休んでこっちに来た娘には何もないのね」


なぜか母さんがあたしに赤ちゃんを渡してきた。


あたしに抱かれた赤ちゃんはあたしの腕の中ですやすやと寝息をたてていた。


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